顔面神経麻痺とうつ病の因果関係を否定

最終更新日:2018年3月20日

顔面神経麻痺で傷病手当金を受給した後に、うつ病で再度、傷病手当金を請求。2つの傷病には因果関係があるとして傷病手当金を支給しない旨の処分が行われたが、再審査請求で2つの傷病の間の因果関係が否定され、傷病手当金が支給されることになった事例。


平成25年(健)第1524号 平成26年10月31日裁決 主文 全国健康保険協会○○支部長が、平成○年○月○日付で、再審査請求人に対してした後記「理由」欄第2の3記載の原処分を取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨

再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)の支給を求めるということである。

第2 再審査請求の経過

  1. 請求人は、右顔面神経麻痺(以下「既決傷病」という。)の療養のために、平成○年○月○日から同年○月○日までの期間(以下「既支給期間」という。)について、労務に服することができなかったとして、傷病手当金の支給を受けた。
  2. 請求人は、うつ状態(以下「既決傷病」という。)の療養のために、平成○年○月○日から同年○月○日までの期間(以下「本件請求期間」という。)について、労務に服することができなかったとして、平成○年○月○日(受付)、全国健康保険協会○○支部長(以下「支部長」という。)に対し、傷病手当金の支給を申請した。
  3. 支部長は、平成○年○月○日付で、請求人に対し、本件請求期間については、法定給付期間(1年6か月)を超えた請求であるためという理由により、傷病手当金の支給をしない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
  4. 請求人は、原処分を不服として、標記の社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し再審査請求をした。

第3 当審査会の判断

  1. 傷病手当金の支給については、法第99条第1項に、被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給すると規定され、同条第2項には、「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病または負傷およびこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6か月を超えないものとする。」と規定している。
  2. 本件の場合、既決支給期間に係る既決傷病と本件請求期間に係る本件請求傷病は同一傷病であるとした上で、本件請求期間については、既決傷病に係る支給開始日(平成○年○月○日)から起算して法定支給期間の1年6か月を超えた請求であるとした原処分に対し、請求人は、本件請求傷病の原因は、仕事、人間関係、経済的な理由であり、原因を全て既決傷病のせいとされるのには納得ができないと主張しているのであるから、本件の問題点は、本件請求傷病と既決傷病と相当因果関係のある傷病(以下、このような関係にある2つの傷病を、便宜上、「同一関連傷病」という。)であると認められるかどうかである。

第4 当審査会の判断

  1. 同一関連傷病かどうかについて判断する。
    「傷病」とは、疾病または負傷およびこれらに起因する疾病を総称したものをいい、「起因する疾病」とは、前の傷病または負傷がなかったならば後の疾病が起こらなかったであろうというように、前の疾病又は負傷との間に相当因果関係が認められる場合をいい、負傷は含まれない。このように、「傷病」は、当該疾病又は負傷のみではなく、これらに起因する疾病を含むものであるから、当該疾病又は負傷との相当因果関係があるとされる他の疾病は、当該疾病又は負傷と同一傷病として取り扱われることになる。そして、相当因果関係とは、一般の人が常識的に考えて、ある事実と結果との間に、ある事実からそのような結果が生じるのが経験則上通常であると言える関係をいうものである。そして、その関係は、前者なかりせば後者なからむという関係、すなわち、条件関係があるだけでは足りず、それが経験則上通常である場合であることを要するものである。本件についてこれを見ると、次のとおりである。
    請求人に係る健康保険傷病手当金支給申請書のa病院・A医師(以下「A医師」という。)作成の平成○年○月○日付「療養を担当した医師が意見をかくところ」欄によれば、傷病名には本件請求傷病が掲げられ、その療養の給付開始年月日(初診日)は平成○年○月○日、発病または負傷の年月日は同年○月頃、発病または負傷の原因は「ハント症候群等」、労務不能と認めた期間は本件請求期間、診療実日数は5日、労務不能と認めた期間に置ける主たる症状および経過、治療内容等は、ハント症候群後遺症によるめまい、耳鳴り、難聴、顔面筋脱力および不随意運動等々により、不安、抑うつ気分、睡眠障害等を呈しているとされ、症状経過からみて従来の職種について労務不能と認められた医学的所見には、「上記のため、接客を主とする職場への復帰は困難」と記載されている。 なお、審査官の照会に対するA医師作成の平成〇年〇月〇日付「審査請求人B(昭和〇年〇月〇日)に係る照会事項」と題する書面によれば、本件請求期間にかかる労務不能と診断された主症状として、不安、抑うつ気分、睡眠障害等の抑うつ症状群であったと考えるとされ、平成〇年〇月〇日分の診療報酬明細書ではハント症候群が主傷病とされているが、労務不能の原因として、うつ状態とされた理由については、「主病名が、ハント症候群となっているのは、印象深い病名であったことからカルテ一号用紙傷病名欄第一列目に誤記したことによrます。本来、精神科の主病名が身体病であることは稀で、うつ状態又はうつ病を主病名とするべきでした。同状態又は屋真理による自己評価と自身の低下、将来に対する希望のない悲観的な見方、睡眠障害、食欲不振等のため労務不能に陥ったものと考えます。」とし、どのような症状が増悪し、うつ状態の要因となっているかに対しては、「自己評価と自信の低下や将来に対する悲観的な見方への多大な増悪因子となり、顔面の痛みや不随意運動は睡眠や食欲に悪影響があったものと推察されます。痛み、めまい、耳鳴、難聴等の自覚症状に留まらず、顔面不随意運動やワニの涙症候群、顔面神経障害により、経口摂取時に内容物がこぼれてしまう等の他覚所見も多くあり、接客業に従事する本人にとり、抑うつ気分を悪化させたことは疑いないと考えます。」と回答している。
    また、審査請求時に提出されたA医師作成の平成〇年〇月〇日付「意見書」によれば、本件請求傷病(うつ状態)の原因は「ハント症候群」と記載したが、うつ病・うつ状態の場合、一般的にその原因は状況因と総称される心理・社会・身体的複合要因であるため、「原因」欄には「不詳」と記載すべきところを、ハント症候群による増悪要因が大で、請求人の苦痛がとても大きいことを強調すべく上記表現をとったが、別段ハント症候群のみがうつ状態を将来した唯一無二の原因ではないと記載しており、再審査請求時に提出されたA医師作成の平成〇年〇月〇日付「意見書」には、補足説明として、「発病または負傷の原因」欄に「ハント症候群等」と記載したため、ハント症候群とうつ状態に一対一の直接的因果関係があるような印象を与える可能性があるが、「等」とあるようにあくまでもハント症候群はあまたある発症要因および増悪因子の一つに過ぎないという主旨であるとしている。
    以上の各資料に基づき、本件請求傷病と既決傷病との関係についてみてみると、本件請求傷病の原因として、既決傷病であるハント症候群に直接起因する顔面神経麻痺、顔面不随意運動、ワニの涙症候群などの身体的要因が本件請求傷病の発症の契機あるいは病態の増悪要因になっていることは否定できない。特に、神経学的観点からハント症候群をみると、帯状疱疹ウイルスによって生じる顔面神経麻痺は、原因不明の顔面神経麻痺(Bell麻痺)に比較して、ステロイド療法、抗ウイルス療法に抗して、その機能予後は不良とされ、顔面神経麻痺の残存率が高いだけではなく、機能回復途上から病的な共同運動である顔面不随意運動やワニの涙症候群なども後遺する。そうであるにしても、うつ状態あるいはうつ病を生じる原因としては、身体的要因(外因)によってのみ発病するものではなく、従前から患者自身が有している環境変化や心身両面のストレス等に対する体験や学習をも含めての抵抗性、感受性が内因として大きくかかわってくる。すなわち、同じような程度の環境変化や心身のストレスに曝されたとしても、大多数の者が一様にうつ状態、うつ病を発症するということは経験則上認められず、医学的観点からも、ハント症候群による顔面神経麻痺後に大多数の者がうつ状態、うつ病を発症するという事実はない。さらに、ハント症候群の病態をみると、同症候群は、耳介、外耳道及びその周辺もしくは軟口蓋部の退場疱疹ウイルス感染により発症する症候群で、顔面神経麻痺に加えて、めまい、耳鳴、難聴など蝸牛症状の出現率が高いとされているものの、ハント症候群に直接起因して、器質性精神病あるいはうつ状態・うつ病など気分感情障害が発言するという報告はない。一方、うつ状態・うつ病の原因は、まだ十分に明らかにされていないものの、うつ状態・うつ病など感情障害の発病要因としては、病前人格や精神的・身体的誘因が重要であることが指摘されており、主に連鎖分析を用いた遺伝子解析によって、種々の遺伝標識を用いた研究が実施され、成因に関わるいくつかの遺伝子の存在が指摘されるようになっている。すなわち、感情障害の発病には、遺伝子などによって表現される病前の人格・性格に加えて、学習や経験によって形成される外部環境変化やストレスに対する抵抗性・感受性などの内因と、心身両面に受ける外因があり、それらどちらの要因単独では発病することは少なく、これら2つの要因が組み合わされて、相乗的に作用すると発病するものと考えられている。
    このような考え方にたってみると、既決傷病(顔面神経麻痺)と本件請求傷病(うつ状態)は、相当因果関係のある同一傷病と認めることは相当ではなく、このような考え方は、A医師作成の回答書の記載内容とも矛盾しない。
  2. そうすると、既決傷病とは別傷病と認めることのできる本件請求傷病の療養のため労務不能と認められるのであるから、本件請求期間について傷病手当金を支給しないとする原処分は相当ではなく、これを取り消すこととし、主文のとおり裁決する。

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