強迫性障害で障害年金を受給したい
強迫性障害での障害年金の請求
強迫性障害とは
強迫性障害の本質的病像は反復する強迫思考あるいは強迫行為です。さらに詳しく言うと、自分の意に反して、不安あるいは不快な考えが浮かんできて、抑えようとしても抑えられない、あるいはその様な考えを打ち消そうとして、無意味な行為を繰り返すような症状を強迫症状と言いますが、強迫性障害は、強迫症状を主症状とする神経症(不安障害)の一型(国際疾病分類で「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害(F42)」)にあたり、障害年金を受給するのは難しい疾病と言われています。
神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。(引用:障害認定基準第8節/精神の障害)
強迫性障害で障害年金は受給できるか?
旧国民年金法では、神経症による精神障害は障害年金の支給対象とされていませんでした。その後、昭和40年改正により、神経症を含む全ての精神疾患が対象傷病とされましたが、その立法過程で全ての神経症を対象傷病とすることに対して疑問が生じ、一定範囲のものを対象傷病から除くこととされました。
すなわち、神経症においては、患者がその疾患を認識し、その状態から引き返し主体的に治癒に持ち込みうることが可能(自己治癒可能性)であり、患者本人が心理的葛藤からの逃避あるいは現実的満足(疾病利得)を得ているが、保護的環境がなくなれば、疾病利得を得ることができなくなり、精神症状が消失することが、その臨床例からしばしば観察されるということから、自己治癒可能性が高く、疾病利得があるものを制度の趣旨・目的から除外することとされたのです。
強迫性障害は、この自己治癒可能性や疾病利得を理由に、一定範囲のものが認定対象外とされています。
神経症については、通常その病状が長期にわたって持続することはないと考えられることから、原則として障害の状態と認定しないものとすること。
(引用:昭和40年6月5日庁保発第21号通達)
認定の対象となる強迫性障害
精神病の病態を示しているもの
強迫性障害は原則として認定の対象とはされないものの、「精神病の病態を示している」ものであれば認定の対象となります。
「精神病の病態を示しているもの」が具体的に何を指しているのかは認定基準の解説や精神医学会などで、客観的指標に判断基準が明示されているわけではありませんが、参考としては以下のような状態がこれにあたると理解されています。
- 当該精神障害からもたらされる、観念、行為等の臨床症状が、時間経過、治療経過、持続性などからみて、日常生活、社会的適応性からのずれにおいて、通常了解のレベルを超えて、了解不能なレベルに至っており、内因性ないし何らかの器質的なものを窺わせるものと判断されるに至ったもの。
- さまざまな症状を訴えているが、現実検討能力は比較的保たれており、自らの力でその疾病を治す能力があるものを「神経症水準」。現実検討能力が重篤に侵され、自らの力でその疾病を治す能力が阻害され、独力で日常生活・社会生活を営むのに多大な困難を生じているものを精神病水準。
ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。
(引用:障害認定基準第8節/精神の障害)
請求した方が良いケース
うつ病を併発しているような場合
強迫性障害の患者さんの半数の方が、うつ病を併発しているというデータがあります。
うつ病は「気分障害」にあたりますので、認定の対象から外されることはありません。
強迫性障害にうつ病を併発しているような場合は、診断書にもその旨を書いていただく必要があります。
尚、精神科医療においては、強迫性障害とうつ病を併発している場合、いずれの診断がなされるかは、通常はうつ病とされますが、慢性障害の場合等は、他方の症状なしに持続する症状(障害)が優先されます。
障害認定においても、たとえ診断書に強迫性障害とうつ病の併発という風に書かれていたとしても、現に優先している症状、すなわち、主たる症状はどちらの障害によるものなのかで障害等級が認定されることがありますので注意が必要です。
また、症例によっては、時に不安、苦悩及び精神運動性の激越が抑うつ症状よりも優勢であったり、以前から存在していた恐怖症や強迫症状の増悪、あるいは心気症的とらわれなどの症状が加わることによって気分の変化が隠されたりすることがありますので、受診してあまり日が経っていないような場合は、医師としっかり話をしながら請求を進めていく必要があります。
統合失調症の一部症状と認められる場合
統合失調症において発展する強迫症状は、病態の一部とみなすべきとされており、鑑別が問題となることはさほどありません。
障害認定日の診断書には「強迫性障害」と書かれ、現在の診断書には「統合失調症」と書かれた診断書を書いて提出したところ、遡って認定されたという事例もあります。
ただし、強迫症状があくまで統合失調症の一部症状として認めれらることが必要ですので、診断書や病歴申立書の書き方に注意が必要となります。
強迫性障害単独で請求する場合
「通常了解のレベルを超えて了解不能なレベルで、内因性ないし何らかの器質的なものを窺わせるもの」もしくは、「現実検討能力が重篤に侵され、自らの力でその疾病を治す能力が阻害されているもの」と認められれば、強迫性障害でも障害年金を受給することが可能です。
診断書に強迫性障害としか記載されていなくても、「精神病の病態を示している」「精神病水準」にあることを診断書に記載していただく必要があります。この記載がない場合、殆どのケースで支給対象外と判断されてしまいます。要は診断書の書き方次第で認定されるかどうかが決まってしまうということです。
傷病名がF4の場合で、F2またはF3の病態を示している場合には備考欄にその旨とそのICD-10コードを記入してください。(診断書の注意書き)
ただし、そのような記載がなくとも認定されているケースはあります。そもそも強迫性障害の病因は、現在までの精神医学的知見から、何らかの器質的要因が考えられているためです。
- 統合失調症、うつ病、大脳疾患などの経過中に、強迫症状が先行ないし出没する。
- 血縁者に同様の傾向が散発する。
- 心因や環境因は確認されていない。
- 重症例の本態は器質的異常を疑われている。
- セロトニン再取り込み阻害薬の効果があり、セロトニンの調節障害が考えられている。
当センターが実際に申請を行なった事例でも最初の裁定請求段階で認定されているケースがございます。また、当事務所には、ご自身で請求を行なったところ障害等級不該当となった方からの審査請求に関するご相談も多く、審査請求を経て認定されているケースもあります。